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中小企業DXで注目される FDE型開発とは?

中小企業のDXが思うように進まない理由は、単にITツールが足りないからではありません。多くの現場では、Excel、紙、メール、チャット、既存システムが混在し、業務の流れが担当者の経験に依存しています。

そのため、開発会社に「何を作りたいのか」を説明しようとしても、最初から要件を整理しきれないことがよくあります。経営者は「効率化したい」と考えている。現場は「今のやり方で何とか回している」と感じている。外部の開発者は「仕様がないと見積もれない」と言う。このすれ違いが、DXを止める大きな原因になります。

そこで注目されているのが FDE型開発 です。

FDEとは、Forward Deployed Engineer の略です。直訳すると「前線に配置されたエンジニア」。顧客の現場に深く入り込み、業務理解から設計、実装、運用定着までを一気通貫で担うエンジニアを指します。

FDE型開発とは

FDE型開発は、米国のPalantirが広めた考え方として知られています。Palantirは、自社のソフトウェアを顧客の重要業務に適用するため、エンジニアを顧客現場に近い場所へ送り込み、現場の課題を見ながら開発を進めてきました。同社の公式ドキュメントでも、顧客の困難なミッションから得た学びを開発に還元する方法論としてForward Deployed Engineeringが説明されています。

従来の開発では、まず要件定義を行い、仕様書を作り、その内容に沿って開発します。一方FDE型開発では、最初から完璧な要件を求めません。現場に入り、実際の業務フロー、使われているExcel、例外対応、承認ルール、既存システムとのつながりを見ながら、小さく作って改善していきます。

つまりFDE型開発は、単なる「開発の外注」ではありません。成果物は仕様書通りの納品物ではなく、現場で実際に使われる仕組み です。

従来型開発との違い

FDE型開発を理解するには、従来の受託開発やコンサルティングとの違いを見ると分かりやすくなります。

項目従来型開発FDE型開発
出発点要件定義書・仕様書現場の業務課題
進め方決めてから作る作りながら検証する
エンジニアの役割指示された機能を実装する課題発見から実装まで担う
成果物納品されたシステム現場で使われる業務の仕組み
ゴール開発完了業務改善・運用定着

従来型開発が悪いわけではありません。作るものが明確で、仕様が固まっている場合には有効です。

ただし、中小企業DXでは「そもそも何をシステム化すべきか分からない」「現場ごとに業務が違う」「ツールを入れても使われない」といった問題が起きやすくなります。このような状況では、最初に完璧な仕様書を作るより、現場を理解しながら小さく作り、実際に使って改善するFDE型開発の方が成果につながりやすくなります。

なぜ中小企業DXと相性がよいのか

中小企業のDXでは、次のような課題がよく見られます。

  • 受発注や在庫管理がExcelに依存している
  • 顧客情報が担当者ごとにバラバラに管理されている
  • 見積書や請求書の作成に時間がかかっている
  • 紙の帳票やPDFから手作業で転記している
  • 問い合わせ対応が属人的になっている
  • 既存システム同士が連携していない
  • AIを使いたいが、何から始めればよいか分からない

これらは、新しいツールを導入するだけでは解決しません。大切なのは、現場の業務を理解したうえで、「どこを自動化すれば効果が出るのか」「どの判断は人が担うべきなのか」「既存の仕組みをどう活かすのか」を見極めることです。

FDE型開発では、エンジニアが現場の状況を把握しながら、必要な部分からシステム化していきます。そのため、大規模なDX計画を立てる前に、小さな成果を出しやすいというメリットがあります。

生成AI時代にFDE型開発が重要になる理由

近年、OpenAIやAnthropicなどのAI企業でもForward Deployed Engineerという役割が注目されています。理由は明確です。生成AIは強力ですが、そのまま導入するだけでは業務成果につながりにくいからです。

たとえば、社内文書検索AIを作る場合でも、単にAIチャットを導入すればよいわけではありません。

  • どの文書を参照させるのか
  • 古い情報をどう除外するのか
  • 回答の正確性をどう確認するのか
  • 個人情報や機密情報をどう守るのか
  • 誰が運用を管理するのか
  • 現場の業務フローにどう組み込むのか

こうした設計が必要です。

生成AIは「導入」よりも「業務への組み込み」が重要です。だからこそ、現場を理解しながらAI活用を設計・実装できるFDE型のアプローチが求められています。

FDE型開発で取り組みやすいテーマ

中小企業でFDE型開発を始めるなら、まずは効果が見えやすい業務から着手するのが現実的です。

  • 見積書・請求書・発注書の自動作成
  • Excel管理している案件・在庫・顧客情報のシステム化
  • メール問い合わせの分類と返信案作成
  • 紙やPDF帳票からのデータ抽出
  • 営業日報や商談メモの自動整理
  • 社内マニュアルやナレッジの検索AI
  • 会計ソフト、CRM、kintoneなど既存ツールの連携
  • 定型レポート作成の自動化

ポイントは、最初から全社DXを目指さないことです。まずは「毎月10時間かかっている作業を半分にする」「転記ミスを減らす」「問い合わせ対応の初動を早くする」といった、現場の負担が大きい業務から始めます。

小さく作り、使いながら改善し、成果が出たら横展開する。この進め方がFDE型開発の基本です。

FDE型開発の進め方

実際のFDE型開発は、次のような流れで進みます。

1. 現場ヒアリング

経営者や管理職だけでなく、実際に作業している担当者から業務の流れを聞きます。どの作業に時間がかかっているのか、どこでミスが起きるのか、どの判断が属人化しているのかを確認します。

2. 業務とデータの整理

Excel、紙、メール、チャット、既存システムなど、業務に使われている情報の流れを整理します。ここで初めて、どこをシステム化すべきかが見えてきます。

3. 小さな試作品を作る

最初から完璧なシステムを作るのではなく、業務の一部に絞って動くものを作ります。現場で触れる形にすることで、課題や改善点が具体的になります。

4. 現場で使いながら改善する

実際に使ってみると、想定していなかった例外処理や入力ミス、使いにくい画面、承認フローの問題が見つかります。FDE型開発では、こうした現場の反応をもとに素早く改善します。

5. 本番運用に乗せる

業務で継続的に使うためには、権限管理、ログ、バックアップ、マニュアル、担当者教育なども必要です。作って終わりではなく、運用に定着させるところまで設計します。

6. 他業務へ横展開する

一つの業務で成果が出たら、同じ仕組みを別部署や別業務に応用します。ここで初めて、DXの効果が会社全体に広がっていきます。

成功させるための注意点

FDE型開発を成功させるには、現場の協力が欠かせません。エンジニアが業務を深く理解するには、担当者が実際の困りごとや例外対応を共有できる体制が必要です。

また、経営側の意思決定も重要です。現場改善には、業務フローの変更や権限の見直しが伴うことがあります。システムだけを変えても、業務のルールが変わらなければ効果は限定的です。

もう一つ大切なのは、短期的な便利ツールを乱立させないことです。小さく始めることは重要ですが、後から保守できない仕組みを増やしてしまうと、かえって業務が複雑になります。FDE型開発では、スピードと設計品質のバランスが求められます。

FDE型開発で失敗しやすいパターン

FDE型開発は、現場に近いぶん成果が出やすい一方で、進め方を間違えると単なる「便利ツール作り」で終わってしまいます。特に中小企業では、次のような失敗が起こりやすくなります。

現場の要望をそのまま作ってしまう

現場から出てくる要望は重要ですが、すべてをそのまま実装すればよいわけではありません。「このボタンがほしい」「このExcelと同じ画面にしてほしい」という声の奥には、別の課題が隠れていることがあります。

たとえば、担当者が「帳票を今と同じ形式で出したい」と言っている場合、本当に必要なのは同じ見た目の帳票ではなく、取引先に送る情報が正確にまとまることかもしれません。FDE型開発では、要望をそのまま受けるのではなく、「なぜそれが必要なのか」まで掘り下げる必要があります。

経営の目的と現場の改善がつながっていない

DXは現場の効率化だけでなく、売上、利益、品質、納期、顧客満足などの経営指標につながって初めて投資になります。現場の作業が少し楽になっても、会社として何が改善されたのか分からなければ、次の投資判断ができません。

FDE型開発では、最初に「この業務を改善すると、どの数字に効くのか」を確認しておくことが大切です。問い合わせ対応なら一次回答までの時間、在庫管理なら欠品・過剰在庫、請求業務なら締め作業の時間やミス件数など、測れる指標を置いておくと効果が判断しやすくなります。

運用担当者を決めないまま始める

システムは作った瞬間から運用が始まります。マスタデータを誰が更新するのか、エラーが出たとき誰が確認するのか、権限変更を誰が受け付けるのか。こうした運用の役割が曖昧なままだと、せっかく作った仕組みが数ヶ月で使われなくなります。

特に生成AIを使う場合は、参照する文書やデータを更新し続ける必要があります。古いマニュアルや誤った情報を読み込ませたままにすると、AIの回答も古くなります。FDE型開発では、実装と同じくらい運用設計が重要です。

FDE型開発を依頼する前に整理したいこと

FDE型開発は、最初から完璧な仕様書を用意しなくても始められます。ただし、何も整理しないまま依頼してよいわけではありません。発注側が最低限準備しておくと、初期の立ち上がりが速くなります。

まず整理したいのは、「どの業務に一番困っているのか」です。全社の課題を一度に並べるのではなく、現場の負担が大きい業務、ミスが起きやすい業務、売上や利益への影響が大きい業務を3つ程度に絞ります。

次に、その業務で実際に使っている資料を集めます。Excel、紙の帳票、メール文面、マニュアル、既存システムの画面、担当者が個人的に作っているメモなどです。きれいな資料である必要はありません。むしろ、現場で実際に使われているものの方が、業務理解には役立ちます。

最後に、社内の窓口を決めます。経営判断ができる人、現場の実務を知っている人、システムやデータに詳しい人がそれぞれ関われる体制が理想です。中小企業では一人が複数の役割を兼ねることもありますが、「誰に聞けば判断できるのか」が明確になっているだけで、プロジェクトの速度は大きく変わります。

どんな会社にFDE型開発が向いているか

FDE型開発は、すべての会社に必要なわけではありません。作りたいものが明確で、画面や機能の仕様も決まっているなら、通常の受託開発の方が効率的な場合もあります。

一方で、次のような会社にはFDE型開発が向いています。

  • 業務が属人化していて、仕様書に落とし込むのが難しい
  • 既存のパッケージやSaaSを入れたが、現場に合わなかった
  • Excelや紙で回している業務を、どこからシステム化すべきか分からない
  • AIを使いたいが、業務への組み込み方が見えていない
  • 社内にエンジニアがいない、またはいても業務改善まで手が回らない
  • 将来的には内製化したいが、最初の設計を外部と一緒に進めたい

こうした会社では、発注側が最初から答えを持っているわけではありません。現場の中にある課題を掘り起こし、優先順位を付け、動くものにしていくプロセスそのものに価値があります。FDE型開発は、そのプロセスを外部のエンジニアと一緒に進めるための方法です。

FDE型開発は内製化の第一歩にもなる

中小企業がDXを進めるうえで、最終的には社内にある程度のIT判断力を持つことが重要です。すべてを外部に任せ続けると、システムの良し悪しを判断できず、追加開発や保守のたびに外部依存が強くなります。

FDE型開発では、外部のエンジニアが現場に入りながら、社内メンバーと一緒に業務やシステムを整理します。この過程で、社内側にも「システムで解くべき課題」と「運用で変えるべき課題」を見分ける力が蓄積されます。

たとえば、最初は外部FDEが中心になって業務アプリを作り、社内担当者がデータ更新や簡単な設定変更を担う。次に、社内で改善要望を整理できるようにする。さらに、将来的には社内エンジニアや情シス担当者を採用し、外部FDEは設計レビューや難しい実装に回る。こうした段階的な内製化が現実的です。

FDE型開発は、外部に丸投げするための方法ではありません。むしろ、外部の力を使いながら、自社の業務とシステムを自分たちで理解していくための伴走型の進め方です。

FDE型開発を相談できる相手を探している方へ

「DXを進めたいが、まず仕様を書ける状態にない」「AIや業務システムを導入したいが、どの業務から始めるべきか決めきれない」「外注先に依頼したが、業務理解が浅くて作り直しが続いている」 — こうした段階では、仕様書を渡して開発するだけの外注ではなく、業務に入り込んで一緒に何を作るかから決めるパートナーが必要です。

Arintiは、IT事業会社でプロダクト開発や事業推進を経験してきたエンジニアで構成された、DX・開発支援会社です。システムを開発して納品するだけでなく、事業成果の達成まで見据え、事業視点でDX・開発支援 を行っています。

実際に開発を行うエンジニア自身が、課題整理・業務設計・技術選定・開発まで一貫して担当することで、事業理解と実装を分断しない開発体制を実現しています。業務DX、システム開発、アプリ開発、データ基盤構築、AI活用、プロダクト開発まで、事業に必要な仕組みを一気通貫で支援します。

FDE型開発で重要なのは、技術だけを切り出して考えないことです。どの業務を変えるべきか、どこまで既存の仕組みを活かすべきか、どこから小さく作るべきか。こうした判断を、実装するエンジニア自身が現場の文脈を理解したうえで進めることが、成果につながります。

業務の整理から実装、運用後の改善までを分断せずに進めたい場合は、FDE型開発の考え方が一つの選択肢になります。中小企業DXや業務システム開発に関するご相談は、お問い合わせフォームからご連絡ください。

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よくある質問

Q. FDE型開発とは何ですか?

FDE型開発とは、Forward Deployed Engineerの考え方を取り入れた開発スタイルです。エンジニアが顧客の現場に入り、業務理解、課題整理、設計、実装、運用定着までを一気通貫で進めます。

通常の開発では、発注側が要件をまとめてから開発会社に渡す流れが一般的です。一方FDE型開発では、要件が固まる前の段階からエンジニアが入り、現場を見ながら「何を作るべきか」を一緒に決めていきます。

Q. 従来の受託開発と何が違いますか?

従来の受託開発は、要件定義書や仕様書を起点に進むことが多い開発方式です。作るものが明確であれば効率的ですが、業務が複雑で要件を書ききれない場合には、現場とのズレが起きやすくなります。

FDE型開発は、現場の業務観察を起点にします。エンジニアが実際の業務フロー、データ、例外対応、担当者の判断を見ながら、小さく作って検証します。納品物を作ることよりも、現場で使われる仕組みを定着させることに重心があります。

Q. 中小企業DXと相性がよい理由は何ですか?

中小企業では、業務がExcel、紙、メール、既存システムに分散していることが多く、最初から明確な要件を作るのが難しいケースが少なくありません。さらに、業務の進め方が担当者の経験に依存している場合、仕様書だけでは現場の実態を表現しきれません。

FDE型開発なら、現場の実態を見ながら、負担の大きい業務から小さくシステム化できます。全社DXを一気に進めるのではなく、成果が見えやすい業務から始め、使いながら改善し、うまくいった型を横展開できる点が中小企業DXと相性のよい理由です。

Q. FDE型開発は客先常駐やSESと同じですか?

同じではありません。客先常駐やSESは、顧客先で作業するという点では似ていますが、基本的には指示された業務や決められた開発作業を担う形が中心です。

FDE型開発では、課題定義から実装、運用定着までを能動的に担います。単に現場にいることではなく、現場の業務を理解し、何を作るべきかを判断し、動く仕組みにしていくことが本質です。